あっちとこっち

これは2019年9月に東京渋谷区のギャラリーFL田SH(フレッシュ)で展示したものだ。

この作品は、4年前、近所の多摩川の草むらのなかに見つけた手作りの小さな廃村を
「TAMA ART CENTER」と名付けた公共施設に手作業で転換し、東京の中心にあるギャラリーFL田SHと、
東京の端にあるTAMA ART CENTERのあっちとこっちを繋ぐ2館同時開催の展覧会を企画する
というものだった。












(FL田SH・展示風景)



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2015年

多摩川沿いにはヨシという背の高い草が沢山植わっていた。
これは何年も前に大田区が水質浄化の為に植えたものだ。沢山のホームレスのおじさんたちは、
この草のなかに自分たちの家を建てて暮らしている。
川沿いを散歩していて仲良くなったホームレスのおじさんがこの界隈のツアーをしてくれた。
草むらのなかには単管や、川から流れ着いてきた廃材で組んだ道が100m程続いていて、
奥に進めば進むほど誰かの家の敷地に勝手に侵入していく様な緊張感が増してくる。
その道の奥には2件の家が建っていた。
「奥の方に住んでるやつは変わったのが多いから気をつけろよ。」とおじさんが教えてくれた。







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2016年

多摩川を散歩している時、草むらのなかに隠れるように
小さな村が作られているのを見つけた。
はじめは、ホームレスのおじさん達が建てたものだと思っていたが、
その村は、ある変わり者のおじいさんが数十匹のノラ猫たち
をお世話する為に私財をはたいて建てた大きな猫小屋の
あつまりなのだと、仲良くなったホームレスのおじさんが
教えてくれた。
その村から離れたところにも大小の猫の為の家が点々と建て
られていた。猫小屋を建てたおじいさんはホームレスではないのだが、
正月の時などには近所のホームレスのおじさん達を招待して
その村でみんなで宴会などもしていたらしい。
僕が初めてそこを訪れた時は既にそのおじいさんは数十匹
の猫たちと遠くへ引っ越した後だったらしく、
建物はもぬけの殻となっていた。その次に訪れた時には、
建物の大半は工事で取り壊されていて、わずかな骨組みと、
猫たちの墓地だけが残っていた。拾い集めた小石やレンガ
で作られた手作りのお墓はとてもきれいに丁寧に手入れされていて、
すぐ傍ではノラ猫たちが昼寝をしていた。
草むらの奥ではいつも静かでゆっくりとした時間が流れていた。
僕はその場所が好きになり、たまに行くようになった。







近所の多摩川には鳥の楽園がある。それは、野鳥の観察や撮影が好きな近所の人たちが
川から水をひいてきて作った溜池の様な場所で、池の目の前には持ち寄った廃材で東屋の様なものが
建てられていた。
池には、とまり木やエサなどが沢山用意されており、鳥にとっては正に楽園だ。
鳥に興味のない人にとっても、おしゃべりの場や、散歩の休憩所として活用されていた。







もうずっとこの川沿いに住んでいるおじさんが「東京オリンピックごろまでにはここも住めなく
なっちゃうかもなあ。」と言っていた。その数か月後、そのおじさんは家を残してどこかへ
行ってしまった。多摩川沿いには空き家状態になったお家が実は沢山あるという事を知った。
ノラ猫の去勢活動が拡がったことで、使われなくなった猫小屋も増えていった。





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2017年

「ひみつの庭」

多摩川の河川敷に、あるおじさんが勝手に作って以降7年もひっそりと手入れし続けられている小さな庭がある。
その庭がある場所は多摩川でも有数のホームレス住居の一等地であり、 知らない人はなかなか辿りつく
ことができない、正にひみつの庭である。 いつもキレイに整えられている芝の上には、廃材で作った
ベンチが置かれ、 釣り人の為に作られた、川への階段も目立たない様に作られている。よく観察しないと
分からないが、おじさんの気配りが行き届いた居心地の良い場所だ。 因みにおじさんはホームレスではなく、
ただここで庭いじりをして、ただ遊んでいるらしい。 昔に一度、何でこういう事を始めたんですか?
と聞いたら 「これが遊びっていうもんなんだよ!やっぱ遊びがないとな!」 と言われて、なんだか
すごい人に会えたなと感じた。


その庭には、おじさんが庭造りの道具を置いたり、来た人が休憩できる様にと作られた広さ2畳程の
小屋が建てられている。 外壁にはブルーシートが貼られており、知らない人が見たら、 数ある個人家屋の
ひとつだと思ってしまうだろう。 僕はこの小屋の椅子に座って、窓から多摩川の景色を眺めるのが好きだ。
すぐ隣に住むホームレスのおじさんも同じ気持ちで川を眺めているのかもしれない。
ある日おじさんから「お兄さん美大行ってたんなら小屋に絵の一つでも飾ってくれよ!」
と言われて、 それイイな!と思い、この庭で展示を沢山やっていこうと決めた。
このお庭のためにわざわざ遠くから誰かがやってきたら面白いなとワクワクした。
そしてその第一回目の展示を、友人であり絵描きの中島あかねちゃんにお願いした。
ひみつの庭で展示をしようと決める前、よくこの庭の話を友達に話していた。その中でもあかねちゃんは
人一倍興味を持ってくれて、なんと片道1時間半もかけて貴重な休日にわざわざやって来てくれたのが
なんかイイなと思い、展示もお願いした。おじさんがこの庭を作るにあたって、国土の職員さんから、
作物を作るのと、花を植えるのだけはやめてくれと言われたらしく、作物がダメなのはなんとなくわかる
けど、なんで花はダメなんですか?と聞いたら、「花を植えると女の人が寄ってきてトラブルの元となるから
やめてくれ。」と言われたという話が可笑しくて気に入っていて、あかねちゃんには花の絵を描いて
小屋に飾ってもらった。
展示は、多摩川のツアーを含めた、5名限定の予約制で、場所も非公開の1日限定の展示として行われた。




2018年9月23日(第1回)    画家/中島あかね

2018年11月24日(第2回)   アーティスト/うらあやか

2019年6月8日(第3回) 画家/小野田藍

2019年9月21日(第4回) 美術家/花崎ゆり









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2019年  

久しぶりに多摩川へ散歩しにいったら、国土交通省の張り紙がいたるところに貼られていた。
張り紙には多摩川の拡幅工事の事が載っており、それはこれまで通っていた場所たちが水に消える事を意味していた。
猫小屋も、ひみつの庭も、草のなかの道も、もうすぐなくなってしまう。
ここが無くなってしまう前に何かここに関われないかと思い、今は廃墟となり、草がボーボーの、猫小屋の村があった場所を
もう一度キレイにし、そこに行けるきっかけをつくった。多摩川の住人達や、ひみつの庭を作ったおじさんの精神を見習い、
遊びの心をもってその場にある草や落ちている物、崩れた家の破片たちを使って設え、友達の作家に声をかけて
作品を展示してもらった。僕は、自分の家のベランダに置いていたベンチと好きな小説を持って行ってそこに一緒に置いた。
あと空き家になっていた猫小屋には、猫たちに向けて缶で作った魚の彫刻も展示した。



ずっとあっちにあって、もうすぐなくなってしまうものたち。
なくなってしまうことで生まれた新しいもの。